あの頃、テレフォンボックスで
「隣町のレンタルショップへ行くわ。」

後部座席のケイタに告げる。


「うん。」



ラジオから流れる音楽に
リズムを取りながら
返事をする。



貝塚さんのことも、
私が文化祭で悲しい思いをしたことも、
夫のことも、

全てケイタに話せないまま

車を走らせる。



それは、話しても仕方のないこと。

今は・・・・

ケイタとの時間を大事にしなくちゃ。




今、二人でここにいる。


そのことが大切。


この先、二度とこんなことはないだろう。
でも今、この瞬間だけは
私とケイタは二人きり。


今日だけは。



ケイタに切り出すタイミングを
測りかねていたけれど、
時間はまだある。




レンタルショップに着いて
ガレージに車を入れる。





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