あの頃、テレフォンボックスで
はじめての・・・
「ママ、ねぇ・・・・聞いてる?」


「あ、えっと・・・
なんだっけ?」

「ほんっと、ママっていっつもボーっとしてるよね。
最近、ひどいし。
なんか、待ってるわけ?」


「え?どうして?」


「携帯持って、ウロウロしてるから。」

「あ~、

ママいっつも、どこに置いたか
忘れちゃうからね。
常に持っておかないと。」

「忘れたら、鳴らせばいいじゃんっ。」

「そっか~~」


・・・・・・・・そんなに、携帯見てる?私。



携帯電話をもってドキドキするなんて、
想像したこともなかった。



中学2年になった頃、
帰りが心配で、
迎えにきてほしい、とかかってくる
電話を逃してはいけないと思い
家の中に閉じこもっている私を
未来がウザい、と言った。


落ち込む私に夫が与えたのが
携帯電話だった。

「これで、瞳子も自由にすればいい」


こんなちっぽけな道具ひとつに
私の自由がつまっているのかしら?



それを与えられたからといって、
家で待つ生活は変わらなかった。


夕方に、ひとりで
出かける理由もなければ、場所もない。



携帯が鳴るときは
決まって、
未来からの「迎えにきて」のコールか、
夫からの「何時に駅につく」という
突然の電話。



それだけのちっぽけな道具が
今、私の生活をおびやかしている。

少しの希望と
でも、
ほとんどは落胆をもって。




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