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「みあちゃんっ」

 呼ばれて振り返る。陣君がちょうど来たところだった。

「陣君」
「今日はごめんな。手伝って、なんてわがまま言って」

 結局私達は店には入らず、そのまま歩き出した。

「こっちこそ、どこか連れてってなんてわがまま言ったし」

 二人で笑いあう。


 遠くから憧れていただけの桜の木の男の子こと、氷田陣が、私の隣にいる。
 一緒に笑いながら、休日の時間を共有している。
 私はうぬぼれても良いのかな、陣君が私のことを好きだって。

「ここ、遠くなかった?」
「ううん。私のアパートも近くにあるから」
「え?マジで?なんだ。近くに住んでたんだ」

 へへっと笑う陣君は、少年のようで、本当に惹かれる。


 そう、桜の木に微笑みかけていた彼は、こんな顔をしていたんだ。
 その彼に、私は恋をした。
 こうやって隣を歩けることが、嬉しい。
 彼の隣に、いつもいられたらいいのに。


 私が現実世界で、陣君と話している間、私の思考は夢想世界で、彷徨う。

「ここに住んでんだ」

 三分ほど歩いたところで、陣君がアパートを指差した。

「ここだと、大学も近いね。私のアパートからも近いや」

 その二階にある部屋に、陣君に案内されて中に入った。

「あんまり見せられたものじゃないけど」

 陣君の部屋は、こざっぱりとしていて、モノクロな感じで、居心地の良い空間だった。
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