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 陣、元気でね。
 私は、この気持ちを押し込めて、いなくなるから。
 陣、幸せになってね。

 さようなら、陣。


 数日後、陣に届くであろう手紙には、こう書いた。


『陣へ

 陣がこの手紙を読んでるってことは、私はもういなくなったあとだね。って、こういうふうに書くと、なんか自分の死期を悟って書いた手紙みたい。
 でも、安心して、私は死んでないよ。

 何から書けば良いのかな。こうやってあらためて手紙とか書こうと思っても、何を書けばいいか迷うもんだね。伝えたいことは、たくさんあるのに。

 まずは、黙った姿を消してごめんなさい。びっくりしたよね。だけどこうすることは、ずっと前から決めてたの。
 だって、私達は大学を卒業してからも、今までみたいに過ごして良い仲じゃなかったから。

 私は、陣のことが大好きだから。だから私、陣のそばにいちゃいけないよ。一緒にいても、ただの友達になれないから。

 いつも思ってたんだ。私が陣の彼女だったら良いのにって。馬鹿だよね。そうなるわけないのに。

 最初は、一緒にいるだけで良かったんだよ。それこそ友達として、ただ一緒にいられるだけで良かったの。
 隣にいられるだけで、十分だった。陣が私のことをただの友達としか思ってなくても、それで良かったの。

 もしも私達の関係があの頃のままだったら、私達はずっと友達でいられたのかもしれない。大学卒業しても、たまに連絡を取って会ったり、できたのかもしれない。
 だけど、わたしどんどん陣が好きになっちゃったの。陣が手を握ったり、キスしてくれたり、優しくしてくれるうちに、どんどん好きになっちゃったの。

 陣が私のことを好きだって言った日から、私は今度は欲張りになった。陣に甘えて――彼女でもないのに、独り占めしたくなった。
 私は陣のことを、好きになって……後戻りできないくらい、のめりこんだの。そうしたら、泣くことが多くなったの。
 心が、締め付けられるようになった。
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