Debug

「氷田君、君も今日はあがっていいよ」

 小沢さんの言葉に、陣ははっとして頭を下げた。

「ありがとうございます」
「それじゃあ、私達は先に社に戻っているから」
「はい」

 木戸さんが、心配そうに私を見ている。

「……っ」
「佐川ちゃっ……」
「みあっ!」

 私は、耐えられなくなって会議室を逃げ出した。

 私は、一心不乱に走った。
 私とすれ違った人が、何事かと見送る。

 どうして、今さら彼と再会したのだろう。
 私の、一体何が悪かったのだろう。
 ちゃんと、陣とお別れしたのに。
 ちゃんと、自分自身でけじめをつけたのに。
 どうして、またこんな風に再会しなければいけなかったのだろう。
 思い出になりかけていたのに。
 戻ってきてしまった。
 あの時、捨て切れなかった感情が。
 私はまだ、陣が好きなのに……。
 私はまだ、陣が佐和さんのものになっているのを、受け止められるほど、祝福できるほど、強くはないのに。
 私の心を、お願いだからこれ以上……!

< 87 / 96 >

この作品をシェア

pagetop