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「許してくれとは言わない。だけど、謝れてよかった」
「許すも何も……私が、悪かったのに……」

 陣の言葉に、私は首を横に振った。

「私が、全部悪かったのに……謝らないでよ……」

 私が、悪かったのだ。
 私が、陣をおとしめたようなものだったのに。

「私が、ごめんって言わなきゃいけないのに……」
「みあはもう、俺に謝っただろ」

 私の手を握る陣の手に、力がこもった。

「みあは、もう手紙で謝っただろう」

 私は、自分の想いを全て手紙に綴った。
 あの時、陣に全てが届くようにと。

「みあの想いは、全部俺に届いたから」

 私ははっと腕時計を見て、

「に、荷物取ってくる……」

 私は荷物を取りに行こうとしたのに、陣は手を放してくれなかった。

「陣……」
「逃げるなよ」
「……それじゃあ、一緒に来てよ」


 私達は、また一緒に歩いた。
 隣に並んで、一緒に歩いた。
 陣は、私の置いた距離には、踏み込んでは来なかった。
 私達の間にある、目に見えない安全地帯。


「今は、どこに住んでるの?」
「ここの近くのアパートだよ。陣は?」
「俺は社宅に入ってる」
「そう……」

 私は仕事場に入って、荷物を片付けた。
 そして待っていた陣と共に、会社をあとにした。

「……みあ、彼氏はできた?」

 私は首を横に振った。

「でも、憧れてる人はいるよ」

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