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 私は、少し考えてから口を開いた。

「私は昔、陣の微笑みに恋をしたんだよ」

 言ってから、恥ずかしくなった。
 いい年をして、恋とか、そんな言葉を言うはめになるとは思わなかった。
 だけど、陣はやっぱり微笑んで、

「恋人になることを前提に、友達になってください」

 私はやっぱり、その言葉に笑ってしまって、

「結婚を前提に、お付き合いしてくださいってのは、よく聞くんだけど……」

 付き合うことを前提に、友達になるなんて、聞いたことがない。


 だけど、それもいいかもしれない。
 新しい一歩を、踏み出しても良いのかもしれない。
 木戸さんへの憧れと、陣への感情。
 今は、私にもどう転がるかはわからない。
 だけど、陣の申し出を受け止められるくらい、私は強くなったよね?
 ずいぶん迷って、ずいぶん悲しんで、ずいぶん苦しんだ。
 私はもう、エラーを直す方法を覚えたよね?
 間違えそうになっても、すぐにデバッグできるよね?

 私は、微笑んで、

「それじゃあ、番号の交換から始めようか」

 と言った。
 陣も笑って、私達は電話番号と、メアドを交換した。
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