絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「!?」
「ただ、いい加減に付き合っているつもりはない」
「わっ、私のことをどう考えて結婚しないっていうの!?」
「お前が求めている結婚と、俺が思う結婚は、違う」
「どう違うのよ!」
「俺は、もう2度と子供は作らない」
「…………」
 言葉をなくして、俯いた。それしか、今の自分にはできなかった。
「お前が思う結婚は、普通の家庭だろう? 風間のような」
「………風間さんも普通じゃないよ……。勤務時間、ずれすぎだよ……」
「公務員ぐらいが理想か?」
「そっ、んなつもりで言ったんじゃ!!」
「お前は普通のOLで、将来もある」
 ちょっと待って。なんでそんな優しい手で、優しい目で言うの?
「……それってさ、遠まわしに。私のこととか、ためとか言ってるけど、ただ、私と結婚したくないって意味?」
 一応、聞いておく。
「……、誰が相手でも、結婚をするつもりがないのは確かだが、その方がよりお前のためになると信じている」
「……そんな……誘ったのあなたじゃん……けど、結婚までする義務、ないか……」
 俺の物だとか、散々言っておいて、今更結婚はしないって……。
「納得できないのなら、別れる覚悟だ」
 覚悟って……なんで別れるに発展するの……?
「ちょっと……ちょっと待ってよ! 待ってよ……」
 香月はその手を振りほどいた。
「突然。そんな、突然すぎるよ! 結婚とか、子供とか……」
「お前も考えていないわけじゃないだろう?」
「……」
 そうだけど。
 そうだけど……。
「私は別れるつもりはない。絶対に」
 榊を忘れようとして辛い日々を送ったことが頭を回る。
 そう、今離せば必ず後悔をしてしまう。必ず……必ず。
「絶対に別れない。そんな理由でなんて、別れられるはずがない」
「……どんな理由なら納得がいくんだ?」
 そう聞かれると、肩の力がぐっと抜けた気がした。
「嫌いっていわれたら……、もし、私の他に好きな人ができて、その人のことの方が好き、だとか。それが一番大事。私のことが好きなのか、嫌いなのかが、一番大事」
「…………」
 香月は自信を持って答えたが、巽は何か違うことを考えているようで。視線はなんとなくこちらを向き、右親指で頬をゆっくり撫でてはいるが、心はここにない気がする。
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