絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

自家用ジェットでパラオへ

 翌日、巽から珍しく陽気な電話がかかってくる。
『水曜仕事が終わったら連絡してくれ』
 という単純な内容。だから、レストランでも予約してくれてて、ディナーでも連れてってくれるのかなと思っていた。
 乗り込んだ風間が運転するリムジンの中で巽は初めて計画をバラす。
「パラオだ」
「何?」
「2泊3日」
「え、旅行??」
「いいだろ?」
 巽はちらと見て機嫌よく笑う。
「え、い、いいけど、何も用意してないし!」 
 だって、今仕事帰りだし、え、今から飛行機で行くつもり?
「4時間程度で着く。わりとゆっくりできるぞ」
「え、あ、そうなの……私、着替えとか何もないけど……」
「そんなのその辺にあるだろ」
 え、まあ、買えばあるけど……いつもの化粧品とか……。まあいっか、向こうでもっと良いのを買ってもらおう!
「え、今空港に向かってるの?」
「いや、自家用ジェットで行く」
「え!? 飛行機持ってるの!?」
「ジェット機だ」
「…………あそう……」
 あーなるほどねー。お金持ちのってそういうことだなんだなー……。
「じゃあ、帰ってくるのは……いつ? 金曜の夜?」
「土曜の朝早く」
 どうしたの!? なんかえらく上機嫌なんだけど……。パラオ好きなのかな……。
 返す言葉に迷って、
「……私パラオ初めて、えっと、日本のちょっと下にある小さい島だよね」。
「まあ、そうだな……。海外はどこに行ったことある?」
「ロンドンが一番多いよ。ロンドンは何度も行った。好きなの」
 決して、榊が、という意味ではない。
「他には?」
「えー……とロシア、と香港くらい? 他……シンガポールとかハワイとかグアムとか、あとは観光名所だよ。家族旅行がほとんど。ね、聞いて、この前……」
「何だ?」
 巽は胸ポケットから煙草とライターを取り出したが、香月はまさか、それに反応して、火をつけてあげるなどということは、しない。
「兄弟。私、兄と弟がいるの。血は繋がってないけどね」
 別に、慣れた言葉。
「……」
 巽は多分返答に困っている。だから素早く言葉を続けた。
「私が産まれてしばらくして母親が死んで、私が8歳の時に父親が再婚したの。だから、10歳上の兄と4歳下の弟がいるの。兄はショッピングモールの経営とかしてる。あ、えーっと、東都マンションの近くのとこがそうだよ」
「香月……なんだったか、名前は聞いたことがある。お前の兄だったとはな」
「え、うっそお!! 香月夏生だよ!」
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