絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 香月はもう一度自動ドアをくぐり、車のドアを開けた。
「ごめん、弟が来てたみたいなの……。こんな時間に、どうしちゃったのかしら」
 独り言のように喋り続けて、バックを取る。
「気分はもういいのか?」
「え?」
 その時、目を合わせてようやく自分が巽のことなど全くを考えていないことに気づいた。
「え、ああ、うん……。ごめん、私、ダメなの。不機嫌だと、その、すぐケンカしちゃうの。ケンカしたくないから」
「何でもないならそれでいいが」
 巽は意外にも笑いながら溜息をついてくれる。
「うん、ごめん。また、連絡する。明日は仕事だよね……」
「いや、休みだ」
「えっ!?!?」
 なんで言ってくれないの!!
 見つめて心で叫んだが、それで自分が態度を改めるのは何か違うのかもしれない。
「じゃあまた、連絡する……から」
「ああ」
 それだけ言うと、バタンと扉を閉める。先ほどから、後ろからの視線が刺さるようで痛い。
 BMはすぐにエントランスからいなくなる。
「僕はちょっと、顔見たかっただけだから、もう帰るよ」
 正美はこちらにゆっくり近づき、見降ろしながら、微笑む。
「えっ、あそう……。ちょっとくらい、上がってけばいいのに」
 あまりにも悪いと思ったので、口にしたが、
「ほんとにいいの?」
 目が合う。たった少し、弟と視線が合っただけなのに、息苦しさに耐えられずすぐに目を逸らした。
「また、今度にするよ……あんまり迷惑かけてもいけないから」
 
< 215 / 318 >

この作品をシェア

pagetop