絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 自分が一番正しいと信じている兄の口からは、自身を神だと言わんばかりの、正しい声を強く出してくる。
「別にいいじゃない。そんなことくらいで」
 軽視したいと望みながらも、一番重視している自分がいる。
「必ず後悔するぞ」
「したって兄さんには関係ないわ」
「男がほしいなら紹介してやる」
 香月は静かに、カップの全てを飲み干し、ソーサーに戻した。カタリと音を立てることもなく。
 今日は話題の店のディナーの様子を最上に報告することになっていた。また、よければ今井とも来たいと思っていた。だけど、とてもそんな気軽な気分には戻れそうもない。
「私は絶対あの人と一緒にいる」
「お前がその、20歳の子を子供だと思えるのならそれでいいさ。だけどそんなの、思えるはずがないだろ? それが普通だ。そんなの、受け入れられない」
「勝手に判断しないでよ!」
 しっかりと目を見て言った。
「悪い噂も多い……やり手だがな、それなら、安月給のサラリーマンの方がまだマシだ。お前に合ってる」
「…………」
 言葉を失って、目を伏せた。途端、
「悪い、会社からだ」
 夏生はポケットから出した携帯を見つめながら席を立ってしまう。
 夏生がしたことは正しい。夏生は私を心配して先に教えてくれたのだ。なのになぜか、その時は夏生が憎らしくて仕方なかった。
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