絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「私……今は分からない。本社へ来て、宮下代理は本当にすごい人だと思いました。それを実感した……。尊敬したし、今まで付き合ってきたことを誇りに思えるくらい、素晴らしい人だと思いました……。
 成瀬さんや城嶋さんの指示に従って仕事をしながら、宮下代理の仕事ぶりをみて……すごい人だなあって毎日、本当に毎日思ってて……」
「うん……」
「だけど私……それと、付き合うとは、全然違う気がする」
 思っていることは、ちゃんと言葉にしないと伝わらない。
「……うん」
「今は、その……宮下代理が他の人と結婚した方がいいと少し思うんです。前はそうじゃなかった。
 自分が実際宮下代理の隣にいてみて、そうじゃない気がしたんです。
 こんなに尊敬できる宮下代理と私が結婚をする……、それはやっぱり違う気がします」
 言い切った後に、息を吐いた。
「……そうか」
「わかってもらえますか?」
「……ああ……」
 香月は今自分が吐いたセリフをぼんやり考えながら、この期に、この髪の毛を切ろうと思った。肩甲骨まである髪を、思い切って、ボブまで切る。
 それくらいの何か変化があった方が、自分自身でも納得いくような気がした。
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