境界線
まだジャケットを着たままの私の前で、高橋は鼻歌を歌いながらジャケットを脱ぎはじめる。
私が女だってわかってるのか。
それ以前に、私は高橋に女だって認知してもらいたいのか。
自問自答の末吐いたため息を聞いた高橋は私の顔を覗き込んで、また屈託のない笑顔を見せた。
「先、シャワーどうぞ」
◇
「高橋。意外にもやり手ですね」
すっかり出来上がった風なマキは眉間にシワを寄せ刺身をつまんだ。その姿は四十過ぎのおじさんにしか見えない。
「シャワーなんかあびたらそれが最後ですよ。次に男が浴びて出てきたらもうセックスに持ち込まれるの確実です」
マキが何故こんなに怒り気味に話すのかはよくわからなかった。既に三杯ビールを消化したマキは、上司の私でも制御できなかった。