境界線
無人のエレベーターに乗り込み、閉じるボタンと三階のボタンを押した。
すると、扉が閉まる直前に誰かが体をすべりこませ入ってきた。
「っと、失礼。おっユリコか」
「リョウスケ…」
私は会いたくない男の登場にため息をつく。
「何だよそのため息は」
「あなたに会いたくなかったわ」
不機嫌になった私の顔を覗きこみながら、リョウスケはいつもの営業スマイルを振り撒く。
むかつく顔。
「うそだな。会いたかったくせに」
「妄想ならご勝手にどうぞ」
「相変わらず冷たいな、ユリコは」
名前を呼ばれるだけでも神経が逆立つ。同じ会社に元カレがいるほど厄介なことはない。
リョウスケは私を慣れたようにあしらう。そしてまた慣れた手つきで私に迫ってくる。
「今度久々に飲みに行こ。俺おごるよ」
「やめてよ。私忙しいし」
「彼氏できたのか?まさか」
語尾が余計だ。
私は再び脳裏に現れた高橋の存在を掻き消すように首を横に振った。