境界線
「何で結婚なんかしたんだろ」
今にも泣き出しそうなショウコさんは、何度も口角をあげ、泣くのを我慢しているようだった。
「ショウコさん。またゆっくり今度会いませんか。今日は一時から会議があって」
腕時計を確認すると、時刻は十二時半まで迫っていた。笑顔で頷いたショウコさんの手元から伝票を取って立ち上がる。
「おごらせてください。あとこうゆう話にすごく興味を持ってる後輩がいるんです」
「こうゆう話?」
「強く生きる女の話です」
強くないわよ、とショウコさんは笑いながら言う。その瞳はどこか寂しげだ。
「だから、次会う時、連れてきてもいいですか?」
「どうぞどうぞ。男の浮気を見抜く方法ならいくらでも教えてあげるわ」
頭を下げて、その場をあとにした。
「浮気…か」
何回それで裏切られてきたのだろう。ショウコさんの話は遠い次元の話には感じない。私も何度も経験している。
ショウコさんの話。
マキは食いつくだろうな…。
会議室へ向かうエレベーターの中、そんなことを考えていた。