境界線
07
仕事を終えて帰宅しようと鞄に荷物を詰め込んだ。使い込まれたスケジュール帳、筆箱。地味な化粧ポーチ。何年も作り替えてない眼鏡。
我ながら呆れてしまう。
女っけのない可愛くない私物たち。
彼氏がいたころはもっと気を配っていたはずだ。少しでも可愛く見せられるように。彼氏にもっと好きになってもらうために。
私はくだらないことを考えながら、そんな可愛くない友達がいる鞄を掴み、オフィスを出た。
今晩もカップ酒で乾杯だな。
会社を出て駅に向かう道中で空を見ると、丸い月が見えた。
少しご機嫌な気分になりながら速足で歩いた。夜風が心地良い。
だがそんな私の静かな夜は思わぬ形で崩壊してしまった。
「待てやゴルァ!」
体が凍りついた。
低い男の声だ。
頭が反応する前に反射的に体が凍りついた。
…私?
直感的にそう思った。
背後から聞こえたあの怒号は私に対して向けられたものなのか。