紅梅サドン
次郎は僕を小さく睨むと、アイスの棒を拾ってゴミ箱に捨てた。

ゴミ箱の前で僕に背中を向けたままの次郎は、急に小さな声を出した。


「僕は、寂しいーーかな。」

そうつぶやいた次郎の小さな背中を、僕は見つめた。



「寝るよ、もう。」

僕に顔を向けないまま、次郎は隣の部屋に入って行った。



『寂しいーー』


そんな感情のスイッチが入らない様に、僕は極力努めた。

永遠にサヨナラでは無い。それは分かっている。

でも二度と“四人”でこの部屋に住む事など無いだろう。

それはきっと無い。

このサヨナラは、人生の中ではきっと、たわいもない小さな“サヨナラ”なんだろう。

しかし胸につかえた塊の様なモノは、偽物のダイヤモンドが詰まったみたいに何度も僕を苦しめた。

何故だろう。
このモヤモヤした気持ちが分からない。

そして雪子は遠くに行く。

その場所を誰も僕には教えてはくれなかった。



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