まだ、恋には届かない。
町田の運転で亜紀は病院まで行き、診断書を出して貰って会社に戻った。
町田はずっと、亜紀の側から離れなかった。

火傷は、しばらくは痛みと腫れがあるだろうが、痕には残らないだろうと言われ、臀部と太ももの裏などに、数箇所の打撲が見つかった。
病院についたころには、階段の角などに打ち据えたところは、青く内出血していた。
足首の捻挫が、症状としては一番ひどいらしい。U字型のギプスを装着して、包帯を巻きつけて固定することになった。

包帯が看護士の手でグルグル巻きになったところで、付き添っていた町田が「ほれ」と亜紀が履いてきたビニール製のシューズカバーを差し出した。
用意がいいと驚く看護士に「建築屋なんで、常備品なんですよ」と答えながら、町田は鼻の下を伸ばしていた。

町田のデレっとした顔に、確かに、町田さんが好きそうな美人さんだわと、亜紀はその顔を眺めていた。





「折れてたんですか?」

北岡が亜紀の足を見て目を丸くする。

「ううん。捻挫。でも、3週間くらい、固定したほうがいいって」
「それって、けっこう、重症ですよね?」
「みたいね。看護士さんが美人で、町田さんの鼻の下がでれーって」
「うるせっ」「あはは」

町田の怒り声と、北岡の笑い声が被る。
様子を見にきた部長と課長に、町田があれこれと説明していた。
野田もその話を一緒に聞いて、渋い顔で頷いていた。

「災難だったな」

部長が亜紀にそう声をかけ、今日は帰って休めと告げた。
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