キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「いいのか!?」

とうれしそうに言ったのはキリではなく、その横のジークフリートだった。


「だれがきさまと男同士で湯浴みするかッ! 気色悪い!」

微笑を引きつらせてラグナードがわめいた。


「わたしはべつにいいよ。
二人で入るには狭そうだし、汚れは魔法で消しちゃうし」


キリはかわいい笑顔を作って断って、さっさと自分に魔法をかけた。


結局、ラグナードは二人をついたてから追い出し、一人で久々の湯に浸かって疲れをとった。

湯に浸かっている間、ついたての向こうからはふたたびキリとジークフリートの興味の対象となった動物のあわれな悲鳴が聞こえていた。



湯浴みをすませ、ラグナードは召使いたちが用意していった服に袖を通す。

王との謁見のための、金糸の縁取りのある白い礼服を着て現れた彼を見て、キリが目をまたたいた。


「へええ、鎧よりも王子様っぽい」


青い襟の上着は膝丈までの長さで、
開いたままの前から見える、中に着こんだ黒いベストにも金糸の縁取りがしてあった。


いつの間にか閉じられていた扉が、タイミングよくノックされ、先ほど大広間で彼らを迎え入れた執事が現れた。

「陛下がお待ちです、殿下」


ラグナードがうなずき、

「おまえたちはここにいろ」

と、キリとジークフリートに言った。

「はいはぁい。わたしの杖よろしくねー、でんか」

犬とじゃれて──というか、観念している犬に一方的にじゃれついているキリがうれしそうに手を振った。


「それが──」

執事は困惑したようにキリとジークフリートをちらりと見て、

ラグナードにうやうやしく頭を下げた。

「陛下は、お連れの方もご一緒にと」

「なに──?」


ラグナードは内心あわてた。

「しかしこいつらは、陛下にお目通りできるような身分では……」

もしもキリも一緒に謁見して、王が褒美の杖をその場で彼女に渡してしまうようなことにでもなれば、キリを手もとに留め置く彼の計画は崩れ去ってしまう。


「そうなのですか?」と執事はやや目を大きくした。

「しかし今、そちらのお嬢様はリンガー・ノブリスで会話を」

お出かけ用のおしゃれな黒い上着に黒いスカアトというキリの格好をながめて、執事は不思議そうな顔になる。

「どちらかの貴族のご令嬢なのでは?」
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