キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「お久しぶりです」


宰相閣下──?

キリは、ラグナードから発せられた言葉を胸の中で反芻して、目の前の美人をしげしげとながめた。


「やあねェ。ラグってば、半年ぶりなのにそんな他人行儀なあいさつ」

つややかな唇で軽い口調のセリフをつむぐこのきれいなお姉様が、この国の宰相ということなのだろうか──と、

キリは、何度も目をしばたたいた。


「あら?」

あでやかな赤茶の瞳が、ラグナードの横にいるキリを映した。


「だあれ? かわいいコ連れてるじゃない」

白い指がキリの頬にのびて、唇をなでた。

「はにゃ?」

いきなりのことにキリは目を丸くして、


「このド変態が! キリにふれるなッ」

ラグナードがどなってその手をぱしんとはたき、

キリと美人との間に立ちはだかった。


「いったぁい」

たたかれた手を押さえて「相変わらず野蛮な子ねえ」と文句を言う美人と、

「用がないならさっさと失せろ!」

怒りに顔を染めてわめくラグナードとを、

キリはぽかんと見くらべた。


「俺たちは陛下に呼ばれたんだ。
ここであんたと話をしているヒマはない」


宰相だという美人は、「あら、残念」と言ってけらけら笑い、

「キリちゃんっていうのね。じゃ、またあとでね」

キリに向かってウィンクした。


執事が執務室の扉をノックして、「お連れしました」と中に声をかける。

開かれた扉からラグナードが中へと入り──



「ちょっと、ヤダ! こっちのコなに!? 背中に羽が生えてるわよっ」

立ち去りかけていた美人宰相が、ジークフリートの背を指さしてさわいだ。



「かまうな」

と言って、美人を黙殺してラグナードが部屋の中に消え、

キリとジークフリートも後に続く。


廊下の外に立った執事が扉を閉め、三人の背後でけたたましい声が遠のいた。
< 200 / 263 >

この作品をシェア

pagetop