キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「痛い!」と急に頭を押さえつけられたキリが悲鳴を上げる。

「なにするのー」

「やめろ! 俺は俺が決めた相手以外にかしずく気はねーぞ……!」

二人はよりにもよって国王の前で口々に文句を言った。

「この……無礼者が……!」

ラグナードは怒りで蒼白になる。

「不敬罪で殺されたいのか!」

もがく二人の頭を力まかせに押さえたまま、ラグナードはイルムガンドルに「無礼な者たちで申し訳ありません」とわびた。

「作法も礼儀も知らぬ田舎者ですので」

「そうか」

精悍な女王は、めずらしい生き物を見るようにしばしキリとジークフリートをながめてから、

「その者らが作法をわきまえぬというなら、貴様には似合いの友人だな、ラグナード」

と、冷ややかな視線をラグナードへと向けて言った。


「は?」

「礼儀作法を知る一国の王子なら、誰にも行き先を知らせずに留学先を半年も留守にするなどあり得んとは思わんか?」


ラグナードが固まった。


力がゆるんだすきにその腕から逃れ、キリはぐちゃぐちゃにされたピンクの髪の毛を整えながら女王の顔を見た。

ラグナードに向けられた視線は冷ややかどころではなかった。

この部屋に三人が入ってきてからずっと、グレイの瞳には爆発寸前の怒りの炎がめらめらと燃え続けていた。


──やっぱり。

と、キリは立ちつくしているラグナードを見上げる。

ラグナードってば、留学先から消えたのがバレて大騒ぎになってたんじゃん……!


「この半年間、手をつくして各地を探し回らせたが貴様の行方どころか生死すらもわからなかった。
家臣たちの中には、セイリウスの二の舞だと言う者が後を絶たなかったぞ」


国王の口からは、キリの知らない名前が出てきた。

セイリウスとは誰だろうか。


「それを──今ごろになって、よくものこのこ帰って来られたものだな……!」


イルムガンドルの声音からは、抑えていても腹に据えかねた怒りがにじみ出ている。

ラグナードがあわてた。


「お待ちください。これにはわけが……」

「わけだと!? どんなわけがあろうとも、一国の王子が半年行方をくらませて連絡の一つもよこさない理由になるかッ」


ついに机を拳でたたいて国王が爆発した。


まったく彼女の言うとおりだとキリは思った。
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