キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
確かにガルナティス王国とエスメラルダには因縁がある。

千年前、世界を支配していたエスメラルダに対して独立戦争をしかけ、反乱の先頭に立って神聖帝国を瓦解に追いやり、帝国としてのエスメラルダを事実上滅亡させた国がガルナティス王国だからだ。

このためガルナティスの国民には、魔法使いたちから世界を救ったという自負があり、
同時に魔法の力による支配に対する激しい嫌悪と、反エスメラルダの精神が根強く残っている。


「ばかばかしい」

しかしそのガルナティス王国の王子様を名乗る若者は一笑に付した。

「俺がガルナティスの人間だから、エスメラルダを嫌っているとでも?」

「違うの?」

「いかにも下々の者らしい浅薄な偏見だな」

こっくりと首を傾けるキリを見て、ラグナードは侮蔑たっぷりに言った。

「そんな大昔の歴史より、国を預かる立場の者ならば現在のエスメラルダを問題にする。
ガルナティスだけではなく、世界中どこの国でもこれはエスメラルダに対する共通の見解だ。

今のエスメラルダは『魔法の研究にしか興味のない』連中の国じゃない、
『魔法の探究のためなら興味のあることは何でもやる』人間の国だから危険なんだ」


ふーん、と、卵のカップを暖炉で温めながら、キリは曖昧に相づちを打った。

彼女には、ラグナードの口から放たれた言葉の違いも、それがどうして「危険」なのかもよくわからなかった。


「絶対不可侵などと言っているが、エスメラルダの独占する魔法の知識と軍事力は侮れない。

何をしでかすか知れないあの国の魔法使いを自分の国に入れるなど、賢明な国なら絶対にやらない愚行だな」


偉そうに説明してみせるラグナードだったが、キリにはそれこそ偏見に満ちた受け売りの知識を知ったかぶりで語っているようにしか見えなかった。


「ばっかみたい」とかわいい唇がつぶやいた。

「なんだと?」

むっとしてラグナードがキリをにらみつける。

言葉とは裏腹に、キリの表情にはラグナードのようなばかにした様子はなく、ただあきれ返っているだけのようだった。
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