キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「な、なんだ?」
「テーブルが消えたぞ?」
大騒ぎする客の前で、キリがあははと笑って、
「つい魔法使っちゃった」
そう言ったとたん、今度は消えたテーブルがもとの位置にもとの姿のまま出現した。
続けて少女の瞳が粉々になったランプへと向き、
エメラルドの輝きにとらえられたランプは、時間を巻き戻すようにして組み上がり、たちまちもとどおりになって、ひとりでに宙に浮き上がり天井に戻った。
他の客と同じように目を丸くしたラグナードは、
「よけいなマネをするな」
と言って、背後から斬りかかる男を迎え撃つため瞬時にとっていた構えをといた。
「お嬢ちゃん、魔法使いかい……?」
「そうなのー」
好奇の視線を向けてくる客たちに笑顔で答えて、
「ラグナードってさ」
のびた傭兵たちを表に放り出して戻ってきたラグナードを、キリは驚嘆の思いで見つめた。
「やっぱり王子様じゃないでしょ」
「なんでそうなる!」
力いっぱいツッコミを入れてから、
息一つ切らしていない美青年は、何事もなかったかのように灰色のブロンドをかき上げて、ふたたびテーブルについた。
「だってさー」
店主がおごりだと言ってもう一杯持ってきてくれた甘いお茶を飲みながら、キリはラグナードの向かいでさも不満そうにほっぺたをふくらませた。
「王子様がケンカに強いなんて、夢がなーい」
「じゃあ、王子がたたきのめされるほうが夢があるのか?」
「やだ」
キリは即座に否定した。
「それも夢がない!」
ラグナードはうんざりして、ため息をついた。
やはり少女が王子というものに何を求めているのかさっぱりだった。
「ほんとに戦場では前線で戦ってたの?」
キリは、昨夜ベッドで組み敷かれたときの、鍛え抜かれた鋼のようなラグナードの体の感触を思い出して納得した。
キリが押そうがもがこうがびくともしなかったのも当然だった。
目の前の若者は、体格で勝る相手の剣を余裕ではじき、複数の人数を一人で相手にして、今も傭兵たちを楽々と担ぎ上げて外に放り出してきたのだ。
ひ弱そうな箱入りの外見とはかけはなれた膂力(りょりょく)と、過酷な訓練を重ね生死をかけた戦場で磨かれてきたのであろう、戦い慣れた軍人の動きとをあわせもっている。
最初に本人が明言したとおり、あの傭兵たちではまったく相手にもならなかった。
純粋に剣士としての力量でも、彼の若さでこれほどの優れた腕前を持った者は稀と言える。
彼が自分の剣をキリに預けて抜こうとしなかったのは、男たちが言う騎士道でも、そのあとラグナードが口にした挑発めいた理由でもなく、「必要がない」からだった。
「テーブルが消えたぞ?」
大騒ぎする客の前で、キリがあははと笑って、
「つい魔法使っちゃった」
そう言ったとたん、今度は消えたテーブルがもとの位置にもとの姿のまま出現した。
続けて少女の瞳が粉々になったランプへと向き、
エメラルドの輝きにとらえられたランプは、時間を巻き戻すようにして組み上がり、たちまちもとどおりになって、ひとりでに宙に浮き上がり天井に戻った。
他の客と同じように目を丸くしたラグナードは、
「よけいなマネをするな」
と言って、背後から斬りかかる男を迎え撃つため瞬時にとっていた構えをといた。
「お嬢ちゃん、魔法使いかい……?」
「そうなのー」
好奇の視線を向けてくる客たちに笑顔で答えて、
「ラグナードってさ」
のびた傭兵たちを表に放り出して戻ってきたラグナードを、キリは驚嘆の思いで見つめた。
「やっぱり王子様じゃないでしょ」
「なんでそうなる!」
力いっぱいツッコミを入れてから、
息一つ切らしていない美青年は、何事もなかったかのように灰色のブロンドをかき上げて、ふたたびテーブルについた。
「だってさー」
店主がおごりだと言ってもう一杯持ってきてくれた甘いお茶を飲みながら、キリはラグナードの向かいでさも不満そうにほっぺたをふくらませた。
「王子様がケンカに強いなんて、夢がなーい」
「じゃあ、王子がたたきのめされるほうが夢があるのか?」
「やだ」
キリは即座に否定した。
「それも夢がない!」
ラグナードはうんざりして、ため息をついた。
やはり少女が王子というものに何を求めているのかさっぱりだった。
「ほんとに戦場では前線で戦ってたの?」
キリは、昨夜ベッドで組み敷かれたときの、鍛え抜かれた鋼のようなラグナードの体の感触を思い出して納得した。
キリが押そうがもがこうがびくともしなかったのも当然だった。
目の前の若者は、体格で勝る相手の剣を余裕ではじき、複数の人数を一人で相手にして、今も傭兵たちを楽々と担ぎ上げて外に放り出してきたのだ。
ひ弱そうな箱入りの外見とはかけはなれた膂力(りょりょく)と、過酷な訓練を重ね生死をかけた戦場で磨かれてきたのであろう、戦い慣れた軍人の動きとをあわせもっている。
最初に本人が明言したとおり、あの傭兵たちではまったく相手にもならなかった。
純粋に剣士としての力量でも、彼の若さでこれほどの優れた腕前を持った者は稀と言える。
彼が自分の剣をキリに預けて抜こうとしなかったのは、男たちが言う騎士道でも、そのあとラグナードが口にした挑発めいた理由でもなく、「必要がない」からだった。