キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
ぶつぶつと腹立たしそうに毒づきながら、ヨクルたちを前にして投げ捨てていた飛行騎杖をふたたびかつぎ上げるラグナードの横で、キリは魔物が現れた雪原をじっと見つめていたが、

何を思ったか、突然しゃがみこんで雪に手をついた。


たちまち、霧の魔法で雪が消滅し岩の地肌があらわになる。


「これ──」


雪の下に隠されていた地面に残ったものを見つけて、キリは声を上げた。


「どうした?」


騎杖を抱えたラグナードが横からのぞきこんで、


「魔法陣か……!?」


地面の上で白く輝いていた図形を見て、目をするどく細めた。


「ばかな。なぜこんなものがここに──」

契約書だと言って、キリが羊皮紙の上に書いたリンガー・レクスの赤い文字と同じように、白い線で描かれた複雑な図形はギラギラと銀の光をまいていたが、

やがて、氷がとけるかのごとく消えてなくなった。

「これ、魔法使いが魔法で描いたものにまちがいないよ」

「どういうことだ?」

「今のヨクルたちは──寒くて自然にわいて出たんじゃなくて、誰かが人為的に魔法で召還して、わたしたちを襲わせたものだってこと……になるかな」

「人為的なものだと……!?」


キリは、周囲で吹き荒れる雪と風を見回した。

「魔法の雪……かな?」

二人を凍りつけようと襲いくる吹雪には、敵意と害意に満ちた何者かの意志が宿っているような気がした。

うーん、と魔法使いの少女はうなって、

「ひょっとすると、パイロープのこの異変って……霧の魔物のせいじゃないかもしれないなあ」

と、つぶやいた。


彼女が言わんとしていることをくみ取って、ラグナードはがく然とする。

「これが、魔法使いのしわざだというのか──?」

天候を操り、半径二百キーリオメトルムにも及ぶ広範囲を氷に閉ざしたのが、人の業(わざ)だというのだろうか。

信じがたい思いで、ラグナードは吹きつける風雪をにらんだ。

「少なくとも、今のヨクルは魔法使いの魔法だよ」

「フン、それならそれで、好都合だ」

ラグナードは強気な笑みを作る。

「どんな強い魔法使いが相手でも、魔法使いの魔法はおまえの霧の魔法で消してしまえるんだからな。
魔法が使えない魔法使いなど敵ではない。おまえの援護があれば俺が簡単に斬り捨ててやる」

「うーん……」

確かにそうなんだけど、とキリは胸の中でひとりごちた。


何か腑に落ちないものを感じた。

ただの魔法使いを相手に、三百人の兵団が消息を絶つということがあるだろうか。

しかも、その軍団の中には宮廷魔術師までがいたというのに。


「まさか、怪物の正体ってヨクルかな?」

「まさか」

ラグナードは小さな雪人形たちの姿を思い出して、首を横に振った。

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