始末屋 妖幻堂
 二階の部屋に入ると、男は後ろ手で襖を閉めた。
 それを確かめ、少女は己の帯を解く。
 纏っていた着物を全て床に落とすと、男のほうへ向き直った。

「・・・・・・なるほど? そこまでの傷物を、まともに見世にゃ出さねぇってか」

 顎を撫でながら言う男の目に晒されたのは、少女の真っ白い裸体。
 だがその白い肌には、胸から太股の辺りまで、焼け爛れたような醜い跡が広がっていた。

「売られたときは、上玉だって、おかぁさんも大喜びで、金も弾んだそうです。でも遣り手婆がそれを妬んで、湯に入れられたときに熱湯を被せられて。それで、こんな。お陰で大損したって、見世の皆にいびられて」

「そりゃ、売られてすぐのこったな? まだまだ使い物にもならねぇうちに、すぐ駄目になった商品を、何でまた教育して見世出しまでさせるんだ?」

 足元の単を拾い上げ、少女にかけてやりながら、男が言う。
 かけられた単の襟をぎゅっと握り、少女は俯いた。

「・・・・・・そういうお客がいるんだそうです。遊女を嬲るのが好きな、嗜虐嗜好の。それとか、見世物として皆の前で、獣相手にさせられたり。どうせ普通の客なんか付かないし、出世だって出来ないから、どう扱ったって良いんだって」

 声は震えているが、泣いてはいない。
 ショックが大きすぎて、泣くこともできないのか。

 それ以前に、長年のいびりで、そう簡単に泣くことはなくなったのかもしれない。
 買われたときに『上玉だ』と言われたとおり、傷さえなければ太夫になるのも夢ではないほどの器量だ。

「やれやれ。ヒトは勝手だねぇ。ちぃっとばかしの傷が付いたぐれぇで、あっさり手の平返しやがる」

 呆れたように言い、着ろ、と床の着物を顎で示すと、男は階段を下りていった。
< 10 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop