始末屋 妖幻堂
「さて」

 娘が一階に戻るのを待って、男は話を再開した。

「大体の事情はわかったが。あんたは足抜けしたいってことかい?」

 長火鉢に寄りかかりながら言う男に、狐姫がしなだれかかった。
 男の興味を惹いた娘に、少し嫉妬の眼差しを向ける。

「旦那! 協力してくれるのかい?」

 ぱ、と顔を輝かせ、小太が身を乗り出す。
 嬉しそうな小太をちらりと見、男は娘に視線を戻した。

「協力する・・・・・・とは言ってねぇがな。ま、事情が事情だ。ちぃっとばかしなら、手ぇ貸してやってもいいぜ」

 歯切れ悪く、男が言う。
 花街からの勝手な足抜けは、この上なく危険なのだ。
 男が初めに自分で言ったように、下手に手を貸せば置屋の亡八に命を狙われる。
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