始末屋 妖幻堂
「ということは、ご内儀はこの村のお人ではなかったのですか」

「ええ。いつ頃からか、この裏の岩山の奥に現れまして。まだ若かったこともあり、不憫に思うて我が家で女中として引き取ったのです。で、そうこうしているうちに、ま、情が湧きましてな・・・・・・」

---どこの誰とも知れない娘を、女中として使っていたのか。岩山に現れたってことは、山賊の娘ってこともあろうに。まぁ・・・・・・そう見えないからこそ、引き取ったんだろうけどな---

 何となく、この長の参りようから、彼も里の術中に嵌っているような。

---ま、里の魅力は、ほんに女の魅力なだけかもしれんしな。今の時点では、何とも言えねぇ。女の魅力を使って村長をたらしこんだんだとしても、それはそれで構わねぇし。それより、長の嫁に納まる一番の目的は、楽な暮らしをすることじゃねぇのか。だったら女中を置かねぇのは解せねぇ。ここぞとばかりに、己は何もしねぇはずだ---

 だがこれは、あくまで里が普通の娘であればの話だ。

---里を探ったほうが良いかもな---

 何となく小菊のことを聞く機会を得られぬまま、朝餉を食べ終わった千之助は、散歩がてら聞き込みでもしようかと屋敷を出た。

 が、いくらも行かないうちに、後ろから何かに飛びつかれて、彼の足は止まってしまう。
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