始末屋 妖幻堂
 村長の家の女中が一人だけ、というのが、どうにも解せない。
 いかに家族だけとはいえ、掃除だけでも大変だろう。

 が、里は軽く口元を押さえる。

「いえ、旦那様がおられますし。他人がわらわらいるよりも、身内だけのほうが、何かと気が楽でしょう」

 そういうものなのだろうか。
 その辺りの気持ちは、千之助にはわからない。

 それ以前に、この若い里が長がいればいいと言うほど、この初老の男に惚れているのが信じられないのだが。

 千之助は軽く目を閉じてから、里を見た。
 この千之助が注意しなければならないほど、里は妖しい魅力を持っている。
 初めに里の視線に絡め取られてから、千之助は里を見るのを躊躇っていた。

 だがモノの本質を見抜くには、そのモノを見ないわけにはいかない。
 正体を見破るのに適しているのは、やはり目なのだ。

 目には最もそのモノの内面が現れる。
 眼力、という言葉があるように、最も力を放出する場所でもあるため、不用意に見るのは危険も伴うのだが。

「お里がそう言ってくれるので、私としても気楽におれます。元々外部から来た娘なもので、村内では何かと辛いこともあったでしょうが、その分よう働いてくれますので、いやほんに、この歳にして良い嫁をもらったと思っておりますよ」

 里に微笑みかけられ、長は目尻が下がりっぱなしだ。
< 126 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop