始末屋 妖幻堂
「生憎俺ぁ、煮炊きはできねぇ。腹減ったなら、自分で作ってくれや」

 顎で店とは反対側にある小さな土間を指す千之助に、小菊は慌てて腰を浮かせた。

「あ、そ、それでは、朝餉をご用意致します」

 千之助の他に人影がなく、その千之助自身が炊事ができないのなら、彼もまだご飯を食べてないのではないか。
 そう思い、土間に急ごうとする小菊の横を、千之助は行李を抱えてすり抜けた。

「何、構うめぇ。今日は堀川のほうまで足を伸ばすからよ、ぐずぐずしてたら日が暮れらぁ」

 さっさと玄関で、下駄に足を突っ込む。

「そのうち狐姫も現れらぁ。小太も早々に来るだろうしな。寂しかったら、こいつでも相手にしてな」

 ぱちんと千之助が指を鳴らすと、部屋の奥から『にゃあ』と鳴き声がした。
 驚いて振り向くと、奥の箪笥の上に、少し大きめの猫がいる。

 見てくれは確かに猫なのだが、模様は見たこともない。
 鮮やかな黄色に、漆黒の縞柄だ。

---さっきからいたの? 全然気づかなかったけど・・・・・・---

 こんな珍しい模様の猫、この広くもない部屋で見落とすはずがないと思うのだが。

 唖然としている小菊が我に返ったときには、千之助の姿は、とっくに店先から消えていた。
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