始末屋 妖幻堂
『まぁ・・・・・・ただのヒトじゃ、なさそうだね。この死体の状態からして、普通じゃないし』

「精気を吸われすぎて『朽ち果てた』んだな。ん? でも他の羅刹女に食われて暇を出された奴は、家で普通に死んだようだ。全部が全部、死んだら干涸らびるってわけじゃねぇのか」

 顎をさすりながら言う千之助に、狐姫は、ふぅん、と呟く。

『精気を吸い取るにはさぁ、交わるのが一番なんだ。だからそういう妖は、大抵見目良い姿をしてるのさ。ははぁ、この男、羅刹女に惚れてたわけだね。初心い男の初めての相手が、見目良い羅刹女じゃ、そりゃ足腰も立たないほど溺れちまうわな』

 けけけっと笑う狐姫の言葉に、千之助も何となく合点がいった。

 昔の狐姫太夫の客を思い返してみる。
 どこぞの常連客に連れられて、初めて廓に足を踏み入れたような若造のほうが、狐姫の虜になっていた。
 色事に長けた妖にかかれば、青臭い若造など、ひとたまりもないだろう。

「でもよ、お前さんの客は、ここまで干涸らびることはなかったろ? そんな妙な事件は、耳にしたことなかったぜ。弱っていって、ま、死ぬ奴もいたけど」

『変な死に方したら、後々厄介だろ。あちきはこんな山奥じゃない、れっきとした都の花街にいたんだから』
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