始末屋 妖幻堂
「久しぶりだねぇ。良い子にしていたかい、牙呪丸」

 幼女の小さい手を伸ばして、呶々女は牙呪丸の頭を撫でる。
 十歳程度の呶々女に、二十歳ぐらいの美麗な牙呪丸が抱きついているのは、傍から見ると、相当妙な図だ。
 狐姫が千之助の肩の上で、胡乱な目になっている。

「呶々女、ご苦労だったな。裏見世ってのぁ、この奥かい? 何が起こってる?」

 そんな二人を気にもせず、千之助は呶々女に近づきつつ、奥を見た。
 呶々女はちょっと焦ったように、千之助の袖を掴む。

「そうそう、折良く千さんの気配を感じたから、隙を見て出てきたんだ。何か女子が一人、裏のヤクザ者に連れてこられたんだ。逃げ出したとか言ってたから、あの子が千さんの預かってた遊女じゃないかえ」

「ああ、多分。その女子が連れてこられて、どれぐらい経つ? 蔵があるんだろ? 蔵に近づいた奴はいるか?」

 小菊をわざわざ妖幻堂から連れ去ったことからも、彼女に関しては、おそらく命の危険はないだろう。
 まずは小太の救出だ。

「そうだ。裏見世ってのぁ、ここと続きかい? 暴れりゃ、他の遊女にばれるぐらいの近さか?」

 変に他の遊女を巻き込みたくない。
 今は皆、二階の自室で休んでいるが、相当な物音がすれば、何事かと集まってくるだろう。
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