始末屋 妖幻堂
「ほい」

 仕上げにその指で爺の鼻を摘み、完全に意識を失った身体を、玄関脇の物置部屋に押し込んだ。

「生温いのぅ。このような老人、ちょいと突けば、一瞬で目を回そうぞ」

 そろっと部屋の襖を閉める千之助の後ろから、牙呪丸が言う。

「不用意に無関係な人間を傷つけるわけにゃいかねぇ。裏を仕切ってる野郎なら、遠慮はしねぇけどな」

「・・・・・・厄介だの」

 呟き、牙呪丸はするすると廊下を奥へ進む。

 千之助は、ざっと楼内を見渡した。
 人影はない。
 遊女の部屋は二階である。

 おそらく裏見世というのは、このずっと奥。
 別棟か、地下か。

 他の遊女の部屋と並べるような真似はしないだろうから、その辺りのはずだ。
 考えつつ廊下を進んでいると、前方より小さな影が走ってきた。

「呶々女っ」

 前を歩いていた牙呪丸が、目ざとく影の正体を見極めて足を速める。
 その速度たるや、今まで見たこともないほどだ。
 乱闘の最中でさえ、こんな速さでは動かない。
 まさに一瞬で、牙呪丸は呶々女に抱きついていた。
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