始末屋 妖幻堂
「ああああ・・・・・・。後で禿に、堀川に行ってもらわねぇとな・・・・・・」

 今までで一番嫌そうに、上体を起こして頭を抱える。
 堀川---牙呪丸のところだ。

「呶々女がここにいるのに、よっく牙呪丸が堀川に帰ったよねぇ」

「大変だったんだぜ。ただでさえ前から離れてたじゃねぇか。やっと会えたのに、何でまた離されるんだって駄々こねるしよ」

「言っても、そんなに長期間じゃないのにねぇ。困った奴だよ」

 伯狸楼から帰る道中、千之助はとにかく牙呪丸の説得に骨を折った。
 遊女らの世話に、呶々女はしばらく妖幻堂に預かりたい。
 呶々女のことは遊女らも知っているし、廓からとなりの廓に引き上げてくれた男衆と一緒に遊女らを助けていたので、無事火事から逃れているのもバレている。

 裏の遊女らは、特別呶々女を可愛がっていただけに、火事の後いきなり姿を消したら後々厄介だという理由もあったのだが、呶々女のあるところ、牙呪丸あり、だ。

 千之助としては、牙呪丸はあまり遊女らの目に触れさせたくない。
 中身はともかく、外見が良すぎるからだ。

 さして広くもない妖幻堂内で、色恋の諍いが起こるなど、考えただけでもぞっとする。
 いらぬ諍いの種は、蒔きたくないのだ。

 ・・・・・・まさか自分がその対象になろうとは、このときは思いもしなかったのだが。
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