始末屋 妖幻堂
「あ・・・・・・」

 小菫が、声を上げた。

「あそこ、知ってる・・・・・・。あそこの裏で、よく山菜採ったんだ。冴さんと一緒に、よく行ったもの」

「山菜か・・・・・・。あんたの作る山菜のおひたしは、苦くてとても食えたもんじゃなかった。そうそう、あそこの先の泉で、昔によく水浴びしてさ」

 一人が記憶を呼び戻せば、それがきっかけで徐々にそれぞれの記憶の点が刺激されていく。

 千之助は、黙って遊女らの話を聞いていた。
 下手に口を挟んだら、一種の夢遊状態になっている彼女らを覚醒させてしまう。

 千之助が指を鳴らした瞬間に、遊女らは催眠状態に陥ったのだ。
 軽いものなので、完全に意識がないわけではない。
 眠りに落ちるぎりぎりの状態、夢と現実が入り交じるぐらいの状態で、知っているだろう景色を呼び水に、記憶を呼び戻していく。

「そうだ。思い出した。あちきら、長の家で働いてたんだ・・・・・・!」

 不意に桃香が、はっとしたように声を上げた。
 その声に、皆のどこかとろんとしていた目が、はっきりと開く。
 覚醒したのだ。
 同時に煙が霧散する。

「・・・・・・何で思い出せなかったんだろう? そうだよ、山奥の村で、あちきは生まれた村が飢饉で全滅しちゃったから、残った家族と別の・・・・・・尾鳴村に移り住んだんだ。そこの長の家で女中奉公してたんだよ」

 覚醒しても、先程思い出した記憶は残っている。
 それに、桃香は元々皆と比べて記憶の残骸が残っているほうだったのだ。
 小菊を見て懐かしいと思ったのも、そのせいだ。
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