始末屋 妖幻堂
「う、うん。ていうか、おいら、あそこは好きじゃねぇから」

「だからって、こんな化け物小屋に入り浸るのは頂けねぇな」

 にやりと笑う男の袖を、太夫がちょいと引っ張った。

「何だい、化け物小屋って」

 口を尖らす太夫に、男は口角を上げたまま、否定も肯定もしない。

 そもそもこの太夫も、先程男が口にした花街の太夫ではない。
 花街の太夫が、このような小間物屋にいるはずがないのだ。

 この女は狐姫(こき)という。
 その昔には、花街の太夫に化けて、とある廓に出没していた妖狐である。
 それだけに立ち振る舞いも優雅で、ここの旦那が狐姫太夫と呼んでいるのだ。
 誇り高い妖狐が、何故このような男に従っているのかは謎だ。

 一方小太は、近くの大店で暮らす少年である。
 元々捨て子だったのを、孤児院のような役割も兼ねている、でかい店に引き取られた。
 が、何故かこの家と折り合いが悪く、いつもこの妖幻堂に入り浸っているのだ。

「良い家じゃねぇか。主人も女将も、優しい人だって聞くぜ。もらわれっ子は、おめぇだけじゃあるめぇ。結構何人も世話してるんだろ? 立派になって暖簾分けしてもらった奴もいるらしいじゃねぇか」

「・・・・・・それがまた、厄介なんだよ」

 ぷい、とそっぽを向く。
 小さい頃に捨てられた小太は、そういう温かみが苦手らしい。
 今の親代わりである主人も女将も、良い人なだけに、変に反発もできない。
 それで、返ってもやもやが募るのだろう。
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