執着王子と聖なる姫
廊下に出ると、まるで「モーゼか?」と問いたくなるほどに見事に道が開いた。それに静かに嘆息し、愛斗は突き当たりにある自販機を目指す。

そして、そこで出くわした人物に、耐え切れずとうとう叫び声を上げた。


「shit!何でメーシーがここに居んだよ!」


そう叫びながら立ち止まった愛斗の背中に進路を阻まれたレベッカは、お決まりのようにそこに衝突して「ouch!」と小さく呻いた。

「いってーな、ベッキー」
「それはワタシのセリフ!ぶつかられたくなかったら急にstopはだめデース」
「あ、そっか。sorry」

条件反射でレベッカの頭を撫でようと伸ばした愛斗の手を、誰かがとてつもない力で掴む。

「え?ギャッ!ハルさん!?」
「随分な挨拶やな、愛斗」

どこかのヤンキーよろしくそう凄む晴人に、愛斗は身を縮ませた。

「特別講師はケイ坊だけじゃないんだ」
「言えよ!てか、ハルさん痛いっす」
「お前、うちのセナに何してくれてんねん」
「すいません。ホント、反省してますってば」

ギリギリと腕を捩上げられ、愛斗は苦痛に表情を歪める。それを「また漫才?」と期待に胸を膨らませながら見ていたレベッカが、あることに気付いて愛斗の肩を朝と同じようにポンポンと叩いた。

「何だよ!helpなら要らねーぞ」
「あれが噂のsadist?」
「え?あぁ、そだよ。あれうちの父親」
「Lucky!」

嬉しそうに駆け寄って来たレベッカに、紙コップを持ったメーシーは「ん?」と小さく首を傾げた。

「初めまして!ワタシRebeccaデース!」

まるで大輪のひまわりが咲いたかのように笑うレベッカに釣られ、メーシーはにっこりと微笑んだ。

「よろしくね、レベッカ」
「よろしく!goddessのhusband」
「え?」
「マナがmamaはgoddessだって言ってた」
「言ってねーだろ!」

晴人に腕を捩上げられながらも、愛斗は必死に反論する。その姿がツボに嵌ったレベッカは、ケラケラとお腹を抱えながら笑い始めた。

「マナはcomedian?」
「うっせー。面白がってねーで助けろ」
「help要らないって言った」
「あーもう!お前あっち行ってろよ!ハルさん、そろそろ勘弁してください」
「二度とすんなよ」
「わかってます。わかってますから」

やっとの思いで解放してもらった腕を摩りながら、愛斗はやれやれと小さく呟いた。
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