執着王子と聖なる姫
愛斗が産まれた時、瞳の色を確認して抱きもせずに大泣きした。そして、産まなければ良かったと後悔した。

愛斗に見つめられる度、そんな後悔を責められている気がして居た堪れない気持ちになり、お世辞にも可愛がってきたとは言えない。

それを懸念したメーシーに二人目を提案され、生まれてきたのが莉良で。産んだ直後に瞳の色を確認し、今度は安堵で泣き崩れた。

可愛がってきたとは言い難い、けれども愛する夫に瓜二つな息子。ずっとメーシーに任せっきりだったので、愛斗が今どんな状態にあるのかマリは全く知らなかった。

「まぁ…アンタがそう言うならそうすれば」

渋々そう言ったマリを呆れた目で見つめながら、愛斗はため息混じりに問い返す。

「で、どうすりゃいいんだよ」
「あっ!そうだね。そうだそうだ」

完全に蚊帳の外に出てしまっていたメーシーは、家族会議の本来の目的を思い出してゴホンと一つ咳払いをした。

「セナちゃんはここに一緒に住むことになるから、悪いんだけどレイは部屋を移動してくれるかな?」
「どこに?和室はイヤよ!」
「パパとママの部屋に移動すればいいよ」
「じゃあアタシ達はどうするの?」
「勿論、和室に移動だよ」

不満げに唇を尖らせる女二人にジトリと嫌な目で見つめられ、愛斗は両手を開いて肩を竦めた。

「仕方ねーだろ?今まで通りでも構わねーけど、そうするなら壁作ってくれよ」
「面倒ね」

愛斗と視線を合わせずに、マリはそう吐き捨てる。どうして実の母親にそんな目で見られなければならないのか。それは愛斗とて十分に理解しているつもりでいる。

けれども、こんな時聖奈が居ないと、今にも体が震え出しそうになるのだ。愛斗と聖奈への執着の原因は、半分以上がマリにある。

「そんなに嫌なら、俺と聖奈はハルさん家に住むよ」

瞳を伏せながら言った愛斗の肩を、立ち上がって歩み寄ったメーシーがそっと抱く。

「嫌だなんて言ってない。ただ少し移動が面倒だって言ったんだよ、ママは」
「でも…ちーちゃんも心配だし」
「ほら!マナはいつだってprincessのことばっかり!いつだって「ちー」って言って!princessの子供に生まれれば良かったのに!」

言ってしまった後、マリは「しまった…」と両手で口を押さえた。それを聞き逃さなかったメーシーは、ツカツカとマリに歩み寄り、珍しく…本当にメーシーにしては珍しく、マリの頬をパシンッと平手打ちした。


「言って良いことと悪い事があるって、何度言ったらわかるんだ?愛斗に謝れ」


本気で怒ったメーシーに、マリは泣きながらも素直に「ごめんなさい」と謝罪した。今まで両親のそんな場面を見たことがなかった莉良は、あまりの驚きに大きな目が零れ落ちそうなほどに見開いている。
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