執着王子と聖なる姫

 秘密はモメゴトの始まり

青山にある、三階建ての洒落たデザインのビル。

そこが、トップアーティストばかりを集めた「Japan Artist Group」通称「JAG」の青山事務所である。

その事務所の三階部分で、かれこれ小一時間ほど「ああでもない…」「こうでもない…」と考え込んでいる少年がいる。

佐野愛斗18歳。
言わずと知れた、お馴染みの歪み系執着美少年、佐野家の長男マナである。

専門学校が夏休みに入った今、愛斗とレベッカは、毎日朝から揃ってここに篭りっきりだ。

「愛斗、ちょっと休暇せんか?」

大先輩にあたる恵介の声も全く耳に入らず、愛斗はただただ自分の描いたデザインと睨めっこを続けている。そんな愛斗の代わりに、レベッカが恵介に返事をした。

「Kei、ムダ。マナはああなると長いデース」
「あーあ。今度は何悩んでんの?」
「wedding dress」
「セナの?」
「of course!」

春に「結婚する」と言って一緒に暮らし始めたものの、「やはり待ってほしい」と言ったのは愛斗で。聖奈と千彩は不満げにしていたけれど、「ちゃんと就職してから」と言った愛斗に父親二人が後押しをし、何とか勝利を掴み取った。

それからはほぼ毎日レベッカと共に事務所に顔を出し、「デザインの勉強」と称したアルバイトに励んでいる。

「wedding dressはムズカシイ」
「ブライダルは繊細やからな」
「designにこだわりスギ」
「そっちか!」

誰譲りの才能なのか、愛斗は学生ながらに一人でデザインを任されるほどに有能で。さすがMEIJIの息子!と言われるほどのセンスと繊細さで、ブライダルだろうが和服だろうが何なく熟していた。

けれど、そこはやはりメーシーの息子とも言うべきか…自分の恋人に着せるものとなれば、周りが引くほどに見事なこだわりっぷりを見せる。

その結果、こうして自分で自分の首を絞めてうーんと唸っているのだ。
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