執着王子と聖なる姫
そんな愛斗を止めようと恵介がタイミングを見計らっていると、机に立て掛けてあった愛斗の携帯のランプがチカチカと点滅した。

「どした?」

素早く通話ボタンを押した愛斗に、恵介は「それは気付くんかいっ!」と力一杯ツッコむ。関西人の性である。

鉛筆を器用にクルクルと回しながら、今の今まで難しそうにしていた表情を僅かながら緩める愛斗。察しの良いレベッカは、すぐさま電話の相手が聖奈だと気付いた。

恵介はと言うと、いつもながらの鈍感具合で気付きもしない。

「何でもいい。仕事してるから切るぞ」

アッサリと聖奈との通話を終わらせた愛斗の机に、レベッカが淹れたばかりのコーヒーを置く。ブラック、濃いめ、氷無し。これが愛斗のお決まりだ。

「thank you」
「You're welcome」
「俺にも気付け!俺にも!」
「あ、ケイさん。おそよーございます」
「やかましいっ!」

恵介の二度目になる力一杯のツッコミに漸く振り向いた愛斗は、ヒラヒラと手を振って嫌な笑みを見せた。

「MEIJIさんに下で会いました?」
「メーシー?会うてないけど何で?」
「相当怒ってましたよ」
「えっ!?マジで!?」
「マジどころかマジギレです。な?」

同意を求められ、レベッカは「Yes!」と大きく頷く。それを見て背中に冷たい汗を伝わせた恵介は、慌てて踵を返した。

「謝ってくるわ!」
「行ってらっしゃーい」

再びヒラヒラと手を振りながら、「相変わらず騒がしい人だ…」と愛斗はストローをくわえた。そしてそのまま一吸いし、レベッカを振り返る。

「薄い」
「Oh!sorry」
「まぁいいや」

外では必ず被っている愛斗の「フェミニスト」という仮面も、レベッカの前では脱ぎ捨てられる。レベッカもそれを当たり前に受け入れ、キツく当たられたとてさして気にも留めない。
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