執着王子と聖なる姫
「いいよ。好きなの仕入れてやって」
「あぁ、うん。ほな仕入れてくるわ。黒のやつやんな?」
「ですね。お願いします」

晴人が口止め料を差し出したならば、メーシーも出さないわけにはいかない。遠慮の欠片も無く要求する愛斗を、「さすが俺の子」と認めて諦めるしか、メーシーには術がなかった。

相手が千彩ならば誤魔化しも利くだろうけれど、自分の妻は残念ながらあのマリだ。一度騒ぎ始めたら、とことんまで騒ぐ。そして、娘の莉良まで一緒になって騒ぐのだから、二対一では実に分が悪い。今の状況を考えても、もしものことを考えても、愛斗には味方についていてもらわないと困るのだ。

ふぅっと大きく息を吐くメーシーを、不安げに窺う恵介。

「ホンマにええん?あれごっつええやつやから高いで」
「構わないよ」
「まぁ…メーシーがええならええけど」

やってくれる。と、メーシーは無言で愛斗に視線を送る。それを嘲笑うかのようにクククッと笑い声を洩らす晴人を睨み付け、苛立ちの治まらないメーシーは、再び食ってかかった。

「いい加減自分の非を認めたら?王子」
「知らんかったんやから俺悪ないやん」
「そうゆう問題?」
「せやろ。今更どうせぇちゅーねんな」

「何ケンカしてるデスカー?」

愛斗と恵介が「放っておいた方が身のためだ」と判断した言い争いに仲裁に入ったのは、デザイン画片手にご機嫌に下りてきたレベッカだった。

「ケンカはダメ。チサとマリコにTELしますヨー」

二人の名前を出されては、男達は黙り込むしかない。それをわかってやっているのだから、やはりレベッカはここに居る誰よりも上手なのだろう。

「ハルト、出来たデスヨ」
「お?おぉ。早いな」
「オシゴト楽しいデース」

にこにこと笑うレベッカからデザイン画を受け取り、晴人は一度大きく頷いた。

「さすがやな。やっぱお前の腕は確かやわ」
「Thank You!」
「恵介、成人式の着物これで作っといて」
「りょーかい。ほな、俺行くわ」
「おぉ。行ってこい」

バタンと扉が閉まると、静まり返る事務所内。そこに、再び緊張が走った。
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