執着王子と聖なる姫
「匂いが残ったらマリコ姫に叱られるんじゃない?」
「うっせーよ。麻理子の話すんな」
「負けたからって志保さんに当たるなよ」
「こんなの慣れっこよ」

幼なじみの志保には、これが当たり前で。逆に「フェミニスト」と呼ばれている方が違和感がある。


「で、どうするの?あの金髪ガール」


うふふっ。と、志保は新しいおもちゃでも与えられた子供のように、至極愉しげで。それに再び舌打ちをし、メーシーはふぅっと煙を吐き出した。

「浮気はしない」
「うーん。じゃあ本気?」
「バカ言うな」
「私はいいと思うけどなー。だってアキちゃん楽しそう」

おかわりのアイスコーヒーを注ぎながら、お姉さん気分の志保は笑う。

「…ウザイ」
「サファイアも綺麗だよ?ルビーばっかじゃなくてさ」

色に例えるならば、マリはルビーの赤、レベッカはサファイアの青。志保の中ではそんなイメージが出来上がっていた。

「ひまわりは、夏にしか咲かないよ?バラは温室栽培出来るけど」

花に例えるならば、レベッカはひまわり、マリは深紅のバラだ。
それにコクリと頷くメーシーを見、志保は大きく頷いた。

「じゃ、決まりだね」

にっこりと笑う志保に、話の見えない愛斗は首を傾げる。

当たり障りのない優しさを振り撒いているようで、志保というこの女性は実に腹黒い。メーシーの腹黒さや仕草、口調などの手本が志保だということを、愛斗はここに来るようになって初めて知った。

そして、メーシーの素顔がただの「口の悪い俺様男」だということも。

「愛斗君、大人の恋愛に口出ししちゃダメだよ?」
「恋愛って…」
「いいじゃない。今まで立派に「メーシー」やってきたんだから」
「んじゃ…マリーはどうすんだよ。あの女はメーシーがいなきゃ…」

メーシーがいなければ生きていけない。

それは、誰の目にも明らかだった。ここで離婚でもしようものなら、大変なことになる。

「マリコ姫はさ、昔っから強引でね。付き合うのだってJAGに入るのだって、結婚するのだって勝手に決めちゃったの。アキちゃんの了承も得ないでよ?酷い女よね」
「でも…それでもっ…」

それでも何なのか。父は母を愛しているとでも言うつもりか。
< 206 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop