執着王子と聖なる姫
どうしようか、このアドレスは。

とりあえず登録だけ…と携帯を手にした時だった。タイミングが良すぎるのは、こんな場面のお約束だろう。

「hello」
「マナですか?セナです」

あぁ…うん。と、そこでプツリと止まる。会話も、思考も。

「明日からマナが一緒に登校してくれると、はるに聞きました」
「どうしてでしょう?」
「それは、セナが今日痴漢に遭って、けーちゃんが泣くほど心配したからです」
「あ、泣いたんだ」

さて、と俺は問う。


「俺が今日セナにkissをしたのはどうしてでしょう?」


うーん。と言葉に詰まるセナ。

「どうしてですか?セナにはわかりません」

質問返しは卑怯だ。と、笑ってやる。

「俺にもわかりません」
「ズルイ!マナのことは、マナにしかわかりません」
「でもさ、俺にもわかんねー時もあんだよ」
「それはどんな時ですか?」
「そだな…こうゆう時。今日みたいな時」

ゴロンと寝転ぶと、ネイビーブルーが揺れる。

「セナには難しいです」
「だろうよ。明日の朝迎えに行く」
「はい、わかりました」
「good-night,Sena」
「おやすみなさい」

シン…と静かになった部屋。パタパタとカーテンが風に揺れる音だけが聞こえる。

そう言えば妹はどうなっただろうか。無事両親のベッドに潜り込めただろうか。そんなことを思いながら、着信履歴に並んだ数字と、父から渡されたアドレスを手早く登録する。


これ、俺のメアド。これからよろしく。Mana


たった一行。これが、俺が彼女に送った初めてのメール。
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