執着王子と聖なる姫
歩調を合わせ、慣れない街を散策する。目的の物はすぐに手に入った。あとはフラフラと時間を過ごすつもりだった。

ふとショーウインドーの前で足が止まる。同じように、後ろからモタモタと着いてきていたセナの足も止まる。

「あっ。あれ、可愛い!」

珍しい自己主張。それを無碍にするわけにもいかず、そっと背を押してガラス扉の中へと促した。

「いらっしゃいませ」
「Excuse me」
「あ?え?」

咄嗟に出た言葉に、思わず苦笑いだ。

日本人でなければそうおかしくはない出で立ち。ついつい自己保身に走ってしまった…と、ポリシーに反する行動にチッと舌打ちをする。

勿論、心の中で。

「すみません、あのワンピースをこのladyに」
「あっ、はい。畏まりました」

にっこりと微笑むと、再びセナの背を軽く押す。店員に連れられて行く背を見つめながら、大きく息を吐く。

母と妹があの通り攻撃的なものだから、処世術としてこの笑顔を覚えた。穏やかな性格ではない。決して。あの二人の息子なのだから。どちらかと言えば、この性格は母譲りだと思う。

けれど、この容姿をカバーするにはそんな仮面をつける必要があった。世渡りが上手くなければ、妹を守ってはやれない。そんな思いから身につけたものだ。

「おっ…いい値してる」

手近にあったワンピースの値札を確認すると、ゼロが四つ。それなりの雰囲気が店の中にも漂っている。財布の中には、確か三万円。足りればいいが…と、少し不安になった。

「いかがですか?」
「うーん…」

どうにも納得がいかないのか、カーテンの向こう側で唸り声が聞こえた。

「どした?」

ひょいっと覗き込むと、不満げに唇を尖らせている鏡越しのセナ。胸元切り替えの白いシフォンワンピースなのだけれど、どうにも違和感がある。

「丈が合いません」
「だな」

膝上丈だろうそのワンピースは、セナが着ることによって見事に膝が隠れてしまっている。胸元のギャザーも、パフスリーブ袖も確かに可愛い。

が、如何せん丈が残念だ。鏡の中の自分の姿に、セナがガックリと肩を落としている。
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