執着王子と聖なる姫
日本の夏休みは短い。
それが終われば妹が帰って来る。それと同時に、セナが帰ってしまう。期限は「夏休みが終わるまで」だ。

そう思うと、余計に短く感じるのが不思議なところだ。

「買い物でも行くか」

思えばずっと引きこもり気味だった。いや、完全に引きこもっていた。

NYに居た頃からそうそう出歩くタイプではなかったのだけれど、ここまで引きこもることも無かった。土地勘が無いということよりも、それ以上に俺を引っ張り出す妹が居ないことが大きな要因だ。

「どこに行くんですか?」

パタリと本を閉じ、セナが首を傾げる。コテンとでも言いそうなくらいに傾げられたそれをよいしょと戻し、ポンポンと頭を撫でる。

「取り敢えず…本屋?」
「じゃあ大きなところがいいですね」
「ん?」
「こうゆうのを買うんじゃないんですか?」

つい今しがたまで読んでいた本を指し、にっこりと笑った。

「お前それ読んでわかんの?」
「マナみたいに早くは読めませんが、時間をかければわかりますよ」

日本でも販売されている、有名なファンタジー小説。勿論、全文英語版。正真正銘のオリジナル版だ。日本語みたく難しい言い回しが無いとは言え、それ相応の学力が無いと読むのは難しい。

「そういやお前頭良いのな」
「そうですよ」

エヘンと胸を張る姿がまた愛らしい。普段あまりにすっとぼけた質問ばかりをするものだからついつい忘れがちだけれど、学力は相当なものなのだ。現に、昨日の夜に貸したそれがもう半分あたりまで読まれている。

残念なことに、その他がいまいち…だけれど。

「新しい本買って、服でも見に行くか」

意外な提案に喜んだセナを連れ、街へ出る。

夏の空は高い。青く澄んだ空が好きだった。
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