カローレアの金
「ここがジル、お前が住む小屋だ」
「一人で住むの…?」
「悪いが、意外とこの盗賊は人が多くてな。お前はここの部屋でさっき親父と私の小屋にいた、あの二人と住んでもらう」
「あの人たちと…」
ジルが不安そうに地面を見つめる。
「心配すんな。あいつらは気のいいやつらだよ」
「…うん‼」
「じゃあ小屋に入って挨拶してこい。中にいるだろうから」
そうしてアンは、ジルの背中を軽く押した。
ジルは小屋の扉を開け、中に入って行く。アンは一緒に入ろうとしなかった。
しばらくすると小屋の中から大きな笑い声が聞こえてきた。
「ったく、あいつらの声はでけぇな…」
そうぼやきながらも、ジルを受け入れたことを意味する笑い声を、アンはしばらく聞いていた。
その一方で、カローレア王国の王都にそびえたつ、カローレア城では先ほど、アンと『鬼ごっこ』をしていた衛兵の隊長が女王の御前に膝をついていた。
「女王陛下、申し訳ありません。この王都の隣の都市で、またもやあの金髪の盗人が出たのですが…」
「逃がしたのか!?」
そう声を荒げたのは女王…ではなく、女王の側近であるサインス大臣だった。
衛兵の隊長は、眉をいつも吊り上げていて、長く白いあごひげを生やしている六十にもなろうという、このサインスが苦手だった。
「まあまあサインス大臣。そんなに声を荒げることでも無いでしょう?」
「しかし女王陛下、何度その金髪の盗人を逃しているかと考えると…。しかも相手は子供ですよ?」
「聞けばその子供はかなりの身軽さ…厄介なんでしょう」
温和な声でサインスをなだめる女性…この人こそが、カローレア王国を治めるローズ女王であった。
容姿端麗であり、なおかつ政治の手腕も見事なもので、剣の腕も女性とは思えないものだった。
女王は頭に冠をのせ、赤いドレスを身にまとっていた。
「で、その金髪の子は、今回はどのようにして逃げたのですか?」
「はい。袋小路まで追い詰めたのですが、そこにあった木箱を踏み台にして塀を飛び越え…もう一度追い詰めたのですが、今度は壁を走って塀を越えました。
しかも片手には盗んだ食糧、もう一方には子供を抱えて…」
「子供…?」
「はい。子供が嫌がっているような声が聞こえたわけではありませんので、人質などというものではないかと。恐らく合意のうえですな」