甘い誓いのくちづけを
ふと、目に入ったコーヒーはすっかり湯気が消えていて、まるで今の自分達(アタシタチ)みたいに思えた。


「そう……」


その一言を零すだけで、精一杯だった。


これ以上言えば、言葉よりも先に涙が溢れ出してしまいそうだったから…。


素直に泣けばいいのかもしれないけど、心のどこかでそれを拒んでいる自分(アタシ)がいたのだ。


「わかってくれて良かったよ」


“理解した(ワカッタ)”訳じゃない。


だけど…


何を言っても無駄なんだって事だけはわかるから、今は涙を堪えているだけで精一杯なだけ。


「家の合鍵、今持ってるだろ?俺も返すから瑠花も返してくれ。それから……」


文博は、渡してあった家の合鍵を差し出した後で、あたしの左手を一瞥(イチベツ)した。


< 14 / 600 >

この作品をシェア

pagetop