甘い誓いのくちづけを
「その指輪も返してくれ」


文博はあたしから視線を外し、冷たく言い放った。


あたしは、決して彼の言い分を理解した訳じゃなくて…。


もちろん、納得も出来なくて…。


それどころか、これが現実なのかすらわからなくて…。


自分に与えられた選択肢にどんなものがあって、何を選択するべきなのかも、よくわからない。


だけど…


心は素直な感情を抱いていて、目頭は熱くなるばかり…。


右手で触れたリングが、やけに冷たい。


頭も心もいっぱいいっぱいで色んなものが堪え切れなくなって、とうとう瞳から涙が零れてしまいそうになった瞬間…


「そんな物、返してあげなよ」


それを留めるように、頭上から柔らかい口調で紡がれた言葉が落ちて来た。


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