甘い誓いのくちづけを
聞き覚えの無い、優しい声音(コワネ)。


だから…


最初は自分(アタシ)に向けられた言葉だって事に、全く気付かなかった。


だけど、文博が怪訝な顔をしていて…


「聞いてる?」


その上、声を掛けて来た男性に顔を覗き込まれてそんな風に確認されてしまったから、やっぱりあたしに向けられたものなのだと理解した。


「……ルカ?」


「は、はい……」


名前を呼ばれて、思わず返事をしてしまったけど…


あたしの記憶が正しければ、あたしは目の前にいる男性(ヒト)の名前は疎(オロ)か、顔すら知らない。


それなのに…


心は正直なのか、視界を占める初対面の男性の表情に、胸の奥がトクンと音を立てた。


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