甘い誓いのくちづけを

「おい！お前、いきなり何なんだよ！？」


呆気に取られていた文博もやっと言葉を紡いだけど、あたしの耳に届いた彼の声はすぐにすり抜けていく。


「瑠花、こいつと知り合いなのか？」


それでも咄嗟に首を横に振ると、あたしの顔を覗き込んでいた男性の視線が左手の薬指に移った。


「ねぇ、ルカ」


ダークグレーの美しい瞳が、あたしの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「お前、さっきから『瑠花、瑠花』って……」


「それ、君には必要ないと思うよ？」


全てを押し退けて耳に入って来るのは、ラウンジに流れる上品なクラシックのＢＧＭでも、聞き慣れた文博の声でも無い。


「そんな物、返してあげなよ」


優しい口調でさっきと同じ台詞を落とした、目の前にいる男性(ｶﾚ)の声だった。