甘い誓いのくちづけを
程なくしてエレベーターのドアが開くと、ドアの前に榊原課長が立っていた。


「荻原」


「あっ、お疲れ様です」


条件反射で体を強張らせると、榊原課長が僅かに眉を寄せた。


「……そんなに構えなくても怒ったりしないぞ」


「いえ、そんなつもりは……」


「まぁいい。それより、南條はもう出たか?」


慌てて首を横に振ったあたしを余所に、榊原課長は気難しそうな表情のまま話を変えた。


「あ、はい。少し前に、営業の人達とタクシーで」


「入れ違いだったか……。仕方ない、やっぱりこのまま行くか」


ため息をついた榊原課長のスラックスの裾が、少しだけ濡れている事に気付く。


そして、その手にはびしょ濡れのビニール傘を持っていた。


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